製造業を経営されているJ社長から自社株と相続のご相談がありました。お母様がお亡くなりになられ、お母様の持ち株を誰が相続をするかというご相談です。
お父様はご健在ですが、70代とご高齢です。お子様はJ社長を含めて3人。法定相続人は4人となります。
まずは主な相続財産である自社株の評価を行いました。お亡くなりになったお母様の持ち株の評価は約8000万円となり、相続税総額は約320万円となります。
配偶者の税額軽減の制度を使った場合、配偶者の法定相続分である二分の一、もしくは1億6000万円のどちらか大きい金額まで非課税で受け取ることが可能です。
税理士さんからも配偶者の税額軽減を使ったらどうかとのアドバイスがあったそうです。
しかし、お父様も自社株をお持ちで、現在価値で約6000万円になります。仮にお母様の自社株をお父様が全て相続した場合、お父様の持ち株の現在価値が約1億4000万円となり、お父様がお亡くなりになった時の相続税が高額になることが予想されます。
そこで、今回の一次相続だけでなく、二次相続まで視野に入れた相続対策についてJ社長とお打合せをしました。
一次相続でお父様が相続する割合を0%から100%まで10%単位で変化させ、二次相続時の相続税の試算をし、一次、二次の相続税合計を計算しました。
結果、最も相続税合計が低いのは配偶者の税額軽減を使わず、J社長が100%相続するパターンだということが解りました。それでも一次二次合計で約450万円の納税となる予定です。逆に最も相続税合計が高いのは配偶者の税額軽減を使い、お父様が100%相続するパターンで相続税合計は1300万円を超えます。
もちろん、将来の自社株の評価は変化しますので、それぞれの数値は変化しますし、お父様がお亡くなりになる前の相続対策などによっても変化します。

ここで、改めて自社株の評価について考えてみます。今回自社株の評価が高くなっている主な理由として、純資産価額の割合が高いことがあります。
少し専門的になりますが、非上場会社の株の評価は、業種、会社の総資産、従業員数、取引金額に応じて大会社、中会社(大・中・小)、小会社に分類されます。
大会社は類似業種比準価額100%で評価します。中会社では類似業種比準価額と純資産価額の割合が変化し、大で90:10、中で75:25、小で60:40となります。小会社では100%純資産価額で計算するのが基本です。
開業3年未満の会社や土地保有会社、株式保有会社などは別の計算式となりますのでここでは割愛します。
今回の自社株評価では類似業種比準価額の割合が25%、純資産価額の割合が75%で計算されています。そこで、今期以降は配当をある一定金額以上出すことで、類似業種比準価額の割合を60%に上げることが可能です。さらに取引金額がもう少し大きくなれば、中会社の中に分類され、類似業種比準価額の割合が75%まで上がります。
自社株評価の計算方法を理解することによって、大きな効果があることが解りました。

しかし、最後の課題は二次相続がいつ起きるか誰も解らないことです。お父様がお亡くなりになった月の評価となるので、常に自社株の評価が一定にはなりません。
そこで、相続時精算課税制度をご案内しました。この制度を利用し、お父様からJ社長へ自社株を贈与した場合、2500万円までは贈与税を納めることなく贈与を受け取ることが出来、2500万円を超えた部分については一律20%の贈与税を支払うことになります。
最終的にお父様がお亡くなりになった時、贈与した自社株と他の相続財産を合計して相続税を計算し、以前納めた贈与税も加味して清算をします。以前納めた贈与税の方が相続税よりも高かった場合には還付されます。
この相続時精算課税制度を自社株に使う場合の最大特徴は、贈与時の評価額で固定することです。これはメリットにもデメリットにもなり得えます。贈与時の評価の方が低い場合は相続税を低く抑えられたことになりますが、逆の場合もあり得るのです。
また、J社長が贈与で受け取る自社株は特別受益となります。ご兄弟の理解が得られていれば問題ないのですが、遺留分の侵害請求などの課題も事前にクリアにしておくことが重要です。

J社長からは「税理士以外でも自社株の評価をお願い出来て良かった。相続対策も一般的な方法だけでなく、様々な選択肢を提案してくれ、対策の効果も高いことに満足している。」と高評価を頂きました。
今後、お父様やご兄弟との話し合いをしながら、お母様の相続手続きを進めていくこととなりました。