不動産賃貸業を営むF様から、相続のご相談を頂きました。
F様は89歳の男性で、お身体も健康、頭もはっきりされておりました。先日F様のお姉さまが他界され、「自分も準備をしておいた方が良いのでは」とご心配になられたそうです。
お子様は長女、長男のお二人。奥様は既に他界されており、現在は自宅にお一人でお住まいです。自宅ビルの一部を店舗として賃貸されており、土地も建物もF様の名義です。

相続税が掛かるのでは?というのが一番の心配事でした。
財産一覧を作成し、概算を確認したところ相続税は掛からないだろうとなりました。ただ、課題が2つ見えてきました。
まず、財産の内容を見ると時価ベースでは不動産が6割、預金や証券、保険が4割と綺麗に半分には出来ません。お子様は二人ともご結婚されており、自宅もそれぞれお持ちですので、実家に住むことはないだろうとのこと。店舗兼自宅はゆくゆくご長男が引き継ぐ予定ですが、自宅部分を貸家とする場合には1000万円を超えるリフォームが必要となってきます。
現金に近い資産をもらえるご長女に比べ、資産額は多くてもリフォーム費用が掛かるなど、現金が出ていくことになるご長男から、不満が出ることも想定出来ます。

また2つ目はF様が認知症になってしまった場合、賃貸契約や改修工事の契約が出来なくなってしまいます。よく後見人がサインすれば良いのでは、ということが言われますが、後見人の役割は、財産を守ることです。改修工事などお金が出ていくことには、金額が高い場合にはストップがかかることが多いです。
F様の年齢を考えると、いつ突然がやってくるかわかりません。不動産賃貸の実務にご長男は今まで関わってきてなかった為、実務の引き継ぎも必要でした。

2つの課題のうち、まず一つ目の対策として、遺言を残す方法をご案内いたしました。
公正証書遺言は法的な効力を持っているので、不動産登記の変更や銀行預金の引き出しなどスムーズに行えることが最大のメリットですが、財産内容が大きく変わった場合には作り直さなければならないというデメリットもあります。
自筆証書遺言は気軽に作り直せるメリットは有りますが、相続の際には家庭裁判所での検認が必要です。自筆証書遺言を法務局で保管する制度も始まり、この制度を利用した場合には検認が不要になっています。

年齢から考えると相続財産が大きく変わることは考えにくい為、公正証書遺言が適していると思われましたが、F様は自筆証書の保管制度を利用したいとのご希望でした。書き方によっては無効になってしまうため、神戸司法書士をご紹介し、遺言作成のサポートをさせて頂きました。

お子様たちの不満が出ない様に、F様から生前にご説明頂く流れとなりました。
2つ目の課題の解決には、家族信託などが有りますが、こちらは後日検討していくこととなりました。